
大学4年の夏、僕はひとりでアイスランドへ旅立つことにした。
本当は親友とふたりで行くはずだった。世界地図の端っこにぽつんとある島アイスランド。そんな世界の果てみたいなとこに行こうぜ。そう意気込んでいたのだが。。。
「わりぃ、卒業研究の実験が長引いててさぁ」彼は旅をキャンセルした。
「そうか」でも私の中の炎はもうすでに燃えたぎっている。今さら、「じゃぁオレもやめとこか」というわけにはいかなかった。
「ここで行かなかったら、アイスランドには一生行くことないんちゃうか」
というわけで、ひとりでアイスランドに行くことを決めた。
今思えば、この決断が僕の人生を少し変えることになったのだろう。
〇 初めての一人旅、初めての一人フライト
実は、飛行機にひとりで乗るのも、今回が初めてだった。
成田から出発するタイ国際航空、目的地はレイキャビク。だけど、直行便なんてものはない。成田→バンコク→コペンハーゲン→レイキャビクと、合計28時間の乗り継ぎ旅程だった。当時は、アイスランドのまともなガイドブックもなかったのだ。
機内の座席はB席。右も左も人に挟まれる、あの「真ん中席」だ。
「この隙間で、何時間もじーっとしてないとあかんのかぁ…」
初めての国際線。ぎこちなくシートベルトを締め、どこまで座席を倒していいのかも分からず、キャビンアテンダントの言葉にもやや緊張。周囲の乗客たちは慣れた手つきでヘッドホンをつけたり、アイマスクをしたりしていて、僕だけが場違いな新参者のようだった。
しばらくして、僕の左隣に一人の女性がやってきた。小柄で、しっかりとした顔立ちのアジア系女性。背は150cmくらいだろうか。荷物を上の棚に入れようとしていたけれど、手が届かないようだった。
「Excuse me, can you help me?」
そう、彼女は流暢な英語でCAに声をかけていた。小さな身体なのに、どこか堂々としていて、その姿が印象的だった。
彼女が窓際。僕が真ん中。そして通路側には、スーツ姿でワインをスマートに傾ける韓国人のビジネスマン。僕は、異国のドラマに紛れ込んだような不思議な気分だった。
〇 気になる彼女の視線
ルパ。彼女の名前は、ルパだった。
フライトが始まってしばらくすると、彼女はすぐに眠りに落ちた。静かに、穏やかに。対照的に、僕はというと、あらゆることに不慣れすぎて、ペットボトルを倒しかけたり、機内食のふたをうまく開けられなかったり、ナイフとフォークの扱いに戸惑ったりしていた。
そのたびに、彼女がちらりと僕を見ているような気がした。だけど、それは冷たい視線ではなく、「なんだか面白い人が隣に座ってるな」というような、ちょっと興味を持たれたような感じだった。
そんなことが何度か続いたあと、あるとき僕は、背もたれに頭を預けながらふと、自分の髪が変な寝癖になっていないか気になった。手で後ろ髪を探る仕草をしていたとき、またしても彼女の視線を感じた。
――今だ。
気がついたら僕は、変な英語を口にしていた。
「My hair, OK?」
自分でも「なんて言い方だ」と思った。でも彼女は驚きながらも微笑み、そっと僕の後ろ髪を撫でるようにして「Yes, OK」と答えてくれた。
そこから、僕たちは自然と話し始めた。
〇 空の上で生まれた友情

彼女は大学生で、僕より3歳年下。ネパールのカトマンズに住んでいて、日本には親戚を訪ねてきたのだという。今はバンコクを経由して帰る途中らしい。
英語はペラペラで、僕のたどたどしい英語にも忍耐強く付き合ってくれた。話題は多岐にわたった。ネパールの食べ物、日本で驚いたこと、大学生活、将来の夢、そして僕の「アイスランドひとり旅計画」まで。
彼女の話を聞いているうちに、自分がどれだけ「知らない世界のことを知らないまま生きてきたか」を痛感した。
気づけば、飛行機はバンコクに着陸する時間が近づいていた。
降機の直前、僕は思い切って聞いた。
「メールアドレス、交換しない?」
彼女は笑って「Sure」と答えてくれた。僕たちは小さなメモにお互いのアドレスを書き、そして空港で一緒に一枚だけ記念写真を撮った。
〇 出会いが、旅を“経験”に変える
その後、僕たちは週に一度くらいのペースでメールを送り合うようになった。
彼女の文章は相変わらず美しくて、僕の英語も少しずつだけどマシになっていった。時には写真を送ったり、大学の近況を報告しあったり。距離があっても、つながりを感じられる関係だった。
僕にとっては、こんなふうに連絡を取り合える初めての友ダチだった。
そして、僕は心に決めた。
「卒業旅行は、ルパに会いに行こう」と。
大学最後の春休み、僕はネパール行きの航空券を買った。観光名所もよく知らないまま、ただ彼女に会いたくて。
初めてひとりで乗った飛行機で出会った小さなきっかけが、こんな旅につながるなんて、誰が予想できただろう。
〇 一人旅のはじめ方と、準備のこと
だけど、正直言うと、もっと話せたらよかったと思っている。
「あのとき、ああ言えたら、もっと仲良くなれたかもな」
そう感じた場面がいくつもあった。僕の語彙不足で会話が止まった瞬間、聞き返す勇気が持てなかった場面、思いをうまく伝えられなかった一言。
実はそれ以来、同じような後悔を、外国の友達と出会うたびに何度も感じてきた。
だから、今は空いた時間に少しずつ、英会話の練習をしている。
僕が使っているのはネイティブキャンプというオンライン英会話。
予約なしで24時間いつでもレッスンが受けられるし、ネパール人の先生とも、タイ人の先生とも話せる。あのときのルパとの会話の続きを、もう一度やり直すような感覚で学べている気がする。
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「次の出会いでは、もっとちゃんと話したい」
その気持ちが、今の僕のモチベーションだ。
たったひと言、「My hair, OK?」から始まった物語は、今も僕の心に残っている。そしてきっと、あの旅の続きは、まだこれからも続いていく気がしている。