昆明で出会ったチベット族の女性

昆明で出会ったチベット族の女性

社会人になりたての頃、職場の連続休暇を利用して1週間、中国の昆明を訪れた。大学時代の友人が昆明に留学しており、「こんな機会でもなければ昆明に行くことはないだろう」と思ったのがきっかけである。

昆明は思っていた以上に落ち着いた美しい街だった。街路樹の緑は濃く、空は高く澄んでいる。大都市でありながら騒々しさはなく、ゆったりとした空気が流れていた。友人と一緒に市場を歩き、寺院を巡り、大学のキャンパスを訪れた。観光というよりも生活に近い空気を味わえたことが、何よりの収穫だった。

ある晩、友人に連れられてチベット料理店を訪れた。店内は木を基調にした内装で、壁にはチベット仏教を思わせる装飾が施されていた。ステージでは民族衣装を身にまとった歌手や踊り手が登場し、チベットの歌や舞踊を披露していた。異国情緒に包まれたその店は、ただ食事をする場所というよりも、文化そのものを体感する場であった。

その店で僕たちのテーブルを担当してくれたのが、彼女だった。チベット族の女性で、長い黒髪を後ろで束ね、清楚でかわいらしい雰囲気を漂わせていた。無駄な言葉や仕草はなく、静かな微笑みが印象的だった。正直に言えば、一目で心を惹かれた。しかし、彼女は英語も日本語も話せず、僕は中国語をほとんど話せなかった。会話はすべて、友人が通訳してくれた。

それでも、その短い時間に彼女の笑顔やしぐさを目にするだけで、心の奥に温かいものが流れ込んできたのを覚えている。食事を終え、店を出る間際、彼女はふいに店のカードを差し出した。そこには、彼女の携帯電話番号が書かれていた。


必死の中国語勉強

翌日から、僕は中国語を必死で勉強し始めた。大学の第二外国語で基礎は学んでいたものの、会話となるとほとんど歯が立たない。発音も難しく、声調を間違えると意味が通じなくなる。だが、彼女と少しでも自分の言葉で話したい一心で、何度も繰り返しフレーズを口にした。

大学のキャンパスに足を運び、留学生たちが勉強している輪に加わった。ノートに中国語を書き、声に出して練習する。彼らに笑われながらも、とにかく口を動かし続けた。心の中は「次に会った時に一言でも伝えたい」という思いだけで満たされていた。


宿舎での再会

出会いから3日後の昼、僕と友人は彼女の家を訪ねた。そこは、チベット料理店のスタッフが住み込んでいる宿舎だった。

ドアを開けて顔を見せた彼女は、笑みを浮かべて迎え入れてくれた。部屋の中は質素だったが、整えられた生活の温かさがあった。

彼女は自らカレーを運んできてくれた。スパイスの香りが広がり、体が自然にほぐれていくようだった。食事を共にしながら、僕たちは多くの話をした。彼女はラサの出身で、青い空や雪に包まれた冬、祭りの日の賑わいについて語ってくれた。僕は覚えたての中国語で短い言葉を伝え、友人が会話を補ってくれた。

そのひとときは、まるで夢の中の出来事のようだった。

別れ際、僕は勇気を出して言った。
「日本に帰ったら、中国語を猛特訓して、また昆明に戻ってくる。」

彼女は驚いたように僕を見つめ、やがて笑顔を浮かべた。
「待ってる。」

その一言は、胸の奥に深く刻み込まれた。帰り道、何度も何度もその言葉を心の中で繰り返した。


空港からの電話

二日後、僕は帰国の途についた。飛行機に乗る前、どうしてももう一度気持ちを伝えたくて、空港から彼女に電話をかけた。

もちろん、会話が成立するほどの中国語力はない。だが、準備した短い言葉を必死に繰り返し伝えた。受話器の向こうで彼女は小さく笑い、やさしい声で何かを言った。僕は理解できず、ただ「謝謝」と返すのが精一杯だった。

日本に戻ってから辞書を開き、その言葉の意味を知った。

――「我喜歓你」

それは「私はあなたが好き」という意味だった。

あのとき聞いた声の響きが、改めて胸の奥に広がった。短い旅だったが、その数日は僕の人生を確かに変えていた。


旅と学びの延長線上に

昆明での出会いは、僕にとってただの旅行の記憶ではない。自分の未来を方向づける大きな出来事だった。

「もう一度会うために、中国語を学び続ける。」
そう決意してから、僕の生活の一部は勉強に変わった。オンラインでネイティブ講師と会話できるネイティブキャンプを使い、通勤時間やちょっとした隙間時間に中国語を練習した。駅から職場まで歩いていく時間も惜しんで、覚えた文章をモゴモゴとつぶやいていた。

そして昆明を再訪する際には、格安航空券を探せる 【トラベリスト】 が大きな味方になっている。費用を抑えることができれば、それだけ彼女に会いに行く機会を増やせるからだ。

出会いも学びも、そして旅も、自分から一歩を踏み出したところから始まる。そのことを僕に教えてくれたのは、昆明で出会ったチベット族の彼女だった。

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