
― 真夜中の田んぼで出会った香港カップルとの一夜 ―
国際交流は、いつも楽しいことばかりではありません。
民泊を続けていると、思いがけないトラブルに巻き込まれることもあります。
今回は、私が香港からのカップルを受け入れたときに起きた“忘れられない一夜”を紹介します。
◆ 夜0時、連絡が途絶えた宿泊者
その日、彼らはレンタカーで私の家へ向かっていました。
到着予定は夜10時ごろ。しかし、日付が変わるころになっても、まったく連絡がありません。
私の家は田んぼに隣接していて、ナビによっては細い農道を案内してしまうことがあります。
嫌な予感がして、スマホを握りしめながら何度もメッセージを確認していました。
やっと「着きました!」という連絡が届いたのは、深夜0時過ぎ。
ところが送られてきた写真を見て、思わず息をのみました。
そこには、田んぼのあぜ道にタイヤを取られ、ライトに照らされたレンタカーが傾いていたのです。
◆ 田んぼの闇に浮かぶライトと、初対面の二人
私はすぐに懐中電灯を持って外へ。
夜の農道は街灯もなく、田んぼの水面が月明かりに反射して不気味なほど静かでした。
エンジンの音を頼りに歩くと、そこにいたのは不安そうに立ち尽くす香港の若いカップル。
女性の方は泣きそうな表情で、男性は必死にスマホをかざしていました。
「大丈夫ですか?」と声をかけると、
「Car… stuck…」と困った笑顔。
言葉の壁を越えて伝わる“助けてほしい”という視線に、私も一気に緊張しました。
◆ 通話できないSIM、助けを呼べない彼ら
話を聞くと、彼らのSIMカードはデータ専用で、電話ができないタイプ。
自力で助けを呼ぶことができませんでした。
ひとまず彼らを家に案内して、私は自分のスマホでレンタカー会社に電話をし、保険のロードサービスを手配。
状況を説明するため、通訳サービスを通じて香港の彼らと保険会社をつなぐ役目も引き受けました。
夜中に農道の真ん中で、スマホを両手に英語と日本語を交互に話す――
我が家のリビングは、その時はまるで緊急指令室のようでした。
◆ 警察の到着と、たどたどしい英語
しばらくして警察が到着。
事情を説明すると、警察官の方が一生懸命に英語で話しかけていました。
「You… drive… OK? License… country?」
決して流暢ではないけれど、その誠実さに胸が温かくなりました。
異国で困っている人を前に、誰もが必死に助けようとする――その姿はとても印象的でした。
◆ 午前3時のレッカー救出、そしてビスケット
細い農道にもかかわらず、1時間後に到着したレッカー車は見事に車を引き上げてくれました。
作業が終わったのは午前3時。
寒さと疲れで声も出ない中、彼らは何度も「Thank you」と繰り返してくれました。
「ご飯、食べた?」と聞くと、
「No… we haven’t eaten dinner…」
と少し恥ずかしそうに答えました。
私は非常食として備蓄していたビスケットを差し出しました。
それを受け取った彼らの笑顔は、夜明け前の闇の中で小さな灯りのように見えました。

◆ もっと英語で助けたかった ― その後の決意
全てが終わって家に戻ったのは午前4時。
ベッドに横たわっても、頭の中ではあのときの会話が何度もよみがえりました。
彼らの不安をもう少し軽くしてあげられたら…。
もっと自然な英語で励ませたら…。
その思いから、私は改めて英語の勉強を始めることにしました。
選んだのは、ネイティブキャンプというオンライン英会話サービス。
定額で24時間レッスンを受けられるので、忙しい仕事の合間にも続けられます。
民泊ホストにとって英語は“趣味”ではなく“命綱”。
いざというときに、相手を安心させられる言葉を持っておくことが、最大のホスピタリティだと気づきました。
◆ 民泊ホストとして学んだ3つのこと
今回の出来事を通じて、私は民泊ホストとして大切なことを3つ学びました。
- アクセス情報は写真付きで送ること。
特に田舎では、ナビが農道を案内するケースがあるため、到着前に注意を伝えておくべきです。 - 夜間対応の心構えを持つこと。
トラブルは昼より夜に起こりやすい。懐中電灯・長靴・保険連絡先などを常備しておくと安心です。 - 英語は“おもてなしツール”であること。
完璧でなくても、「相手を助けたい」という気持ちを言葉で伝える力は本当に大切です。
◆ 一期一会の夜
あれから彼らとは連絡を取っていません。
SNSのメッセージも途絶えたままですが、きっとどこかで笑っていると信じています。
旅先で出会ったたった一夜の出来事でも、お互いの心に残る瞬間がある。
それこそが、国際交流の本質ではないでしょうか。
民泊をしていると、思いがけないトラブルや責任に直面します。
でも、そうした“非日常”の中にこそ、本当の人間らしい温かさが宿るのだと思います。
あの夜の田んぼの闇の中で交わした「Thank you」。
それは私にとって、国境を越えた“ありがとう”の重みを知る、かけがえのない経験になりました。

