はじめて会う人の家に泊まる。ブールジュでの2泊3日

はじめて会う人の家に泊まる。ブールジュでの2泊3日

シャルル・ド・ゴール空港に到着したのは、朝6時半だった。
まだ頭が完全には起きていない時間帯で、空港の照明だけが妙に明るい。

高速郊外鉄道RERとメトロを乗り継いで、モンパルナス駅を目指す。
まず空港の駅で、何人かの人にチケットを買う場所を聞いた。
なんとか「ナヴィゴ・イージー」を購入。
駅員さんに乗り換え駅を聞くけれど、発音がとにかく難しい。
車内放送を聴き取る自信がなかったので、電車の中では路線図の正面にずっと立っていた。
降り損ねたら終わり、という緊張感があった。

それでも、なんとかモンパルナス駅にたどり着く。
ほっ。

TERの出発まで、まだ時間があった。
駅ビルの店で、まずコンタクトの洗浄液を探す。
関西国際空港のトイレに置いてきてしまったことに、ハノイで気づいたのだ。
見つけたときは、思わず小さく安堵の息が出た。

TERのチケットは、あらかじめSNCFのアプリで購入していた。
このアプリのことは、去年の夏にフランスを旅していたハンゾーに教えてもらった。
旅は、人づてに受け取る情報で、ずいぶん楽になる。

最初はトゥール行きのTERに乗った。
すると、隣の席の男性が、車掌に何か話している。
胸元を押さえているのが見えた。

やがて車内放送が流れ、
「どなたか医療関係者の方はいませんか」
という呼びかけ(たぶん)が聞こえた。

何人かの人が集まり、静かに話をしている。
少し緊張した空気が流れたけれど、しばらくしてその男性は後ろの席に移動した。
どうやら大事には至らなかったようだ。
見知らぬ人同士が、当たり前のように助け合う光景を見て、胸の奥が少し温かくなった。

トゥールでブールジュ行きのTERに乗り換え、昼過ぎに到着。
旧市街地をぶらぶら歩き、大聖堂の前のレストランでビールを飲んだ。

ブールジュ大聖堂は、圧倒的だった。
天井の高さ、空間の広がり。
中に入ると、奥でお葬式が行われていたらしく、歌声が静かに響いていた。
僕はしばらく、席に座って、その空気を感じていた。

夕方まで旧市街地を歩く。
おしゃれな家が並び、細い路地にも、ちゃんとした表情がある。

午後5時。
仕事を終えたアンが、大聖堂の前まで迎えに来てくれた。

インターパルスで知り合い、実際に会うのはこれが初めてだった。
彼女は僕を見るなり、迷いなくハグをした。
その自然さに、こちらの緊張も一気にほどける。

家に着くと、息子と娘が迎えてくれた。
息子は5歳くらいで、僕にとても興味津々だった。
グミのお菓子をお土産にくれる。
僕は、アンに地元の抹茶を渡した。

夫はカンボジア人だという。
家の中には、日本の人形や仏像の置物がたくさんあった。
遠い国なのに、不思議と近さを感じる空間だった。

その夜は、アンの手料理でビールを飲んだ。
言葉は、完璧じゃない。
でも、これまでオンライン英会話で少しずつ積み重ねてきたおかげで、
言いたいことは、ちゃんと伝えられる。
ネイティブキャンプで、間違えながら話すことに慣れていたのは、こういう時に効いてくる。
文法よりも、「話そうとする姿勢」が大事なのだと、あらためて思う。

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翌朝、アンと散歩に出かけた。
ブールジュは沼地が多く、水辺の道が気持ちいい。
歩きながら、いろいろな話をした。

その後、旧市街地に戻り、大聖堂へ。
一通り回ったあと、アンが写真を撮ろうとした。

「ここ、撮影禁止じゃないの?」
と僕が聞くと、
「そんなことないよ。みんな撮ってるでしょ?」
とアン。

でも、貼り紙があった。
よく見ると、「神聖なイベントの時は撮影禁止」と書いてある。

「撮影禁止なのに、みんな撮ってて、フランス人ってマナー悪いなって思ってた?」
アンは、いたずらっぽく笑った。

僕は少し照れながら、
「もう一周してもいい?」
と言って、大聖堂をもう一度歩いて、存分に写真を撮った。

昨日ビールを飲んだ、大聖堂前のレストランのテラスに座り、今度はワインを頼んだ。
フランスは公衆トイレが少ない。
ビールを飲むとトイレが近くなる。
だから、今日はワインにしようと、昨日から決めていた。

日光を浴びたアンのブロンドの髪は、きらきらして、とてもきれいだった。

僕たちは、お互いの過去の恋愛の話をした。
外国人に興味がある、という共通点。
彼女は失敗談も、驚くほど明るく話してくれた。

そして、ふとした流れで、
「ねえ、あなた、秘密守れる?」
と聞かれた。

「実はね、私たち、離婚するの」
それも、どこか軽やかに。

「来年の秋くらいに、日本に旅行に行くからね」

次の朝早く、彼女は駅まで送ってくれた。
息子も早起きして、一緒に来てくれた。

最後まで、とても魅力的な女性だった。
僕たちは、来年の秋に、日本で会うことを約束した。

はじめて会う人の家に泊まるというのは、
少し勇気がいる。
でも、その一歩の先には、
ホテルでは絶対に出会えない時間が待っている。

ブールジュでの2泊3日は、
この旅の、確かな“芯”になった。