
レ島を離れ、バスでラ・ロッシェルへ戻った。
島の静けさから一転して、港町は人の気配に満ちている。
話し声、食器の音、足音。それらが港の水面に吸い込まれていくようだった。
まずは港の前のレストランへ。
ここでは迷わず、カキと白ワインを頼む。
殻を開けた瞬間に広がる潮の香り。
一口食べて、白ワインを含むと、さっきまでのサイクリングの疲れが、少しずつ溶けていった。

ウェイターが、日本に興味があるらしく話しかけてきた。
片言の英語とフランス語が混ざった会話。
言葉が完璧でなくても、通じ合う感じがある。
こういう場面に来るたびに思う。
「もっと、気軽に話せたらいいのにな」と。
実は旅に出る前、日本にいる間、ネイティブキャンプで英会話を少しだけ続けていた。
短時間でも、毎日外国人と話すことに慣れていたおかげで、
こうした何気ない会話への心理的なハードルは、確実に下がっていたと思う。
“完璧に話す”より、“話そうとする”感覚を身につけるには、ちょうどよかった。
この日の宿は、海の見えるアパートの一室。
Airbnbのスーパーホストに付与されるクーポンを使って泊まった。
窓を開けると、港の空気がそのまま部屋に流れ込んでくる。

ラ・ロッシェルの港の入り口には、二つの塔が向かい合うように立っている。
どの角度から見ても美しく、何度も足を止めて眺めた。
石造りの重たい存在感が、この街の時間の厚みを物語っている。
夕方、ビーチに座って夕日を見た。
空がゆっくりと色を変え、海がそれを映し返す。
言葉にしなくても、心に残る時間だった。

夜になると、金曜日の港は一気ににぎやかになる。
海沿いのレストランは満席。
笑い声と音楽が、港に反響している。
夕食はマルシェの屋台で買ったセネガル料理。
部屋に戻り、昨日買った赤ワインを開ける。
窓を開けたまま、外の喧騒をBGMに食べた。

英語もフランス語も、決して流暢ではない。
それでも、こうして旅先で人と話し、笑い、やり取りを重ねる中で、
「通じた」「分かり合えた」という小さな成功体験が積み重なっていく。
ネイティブキャンプで感じていた“話すことへの慣れ”が、
この港町でも、確かに生きていた。
夜は正直、静かではなかった。
若者たちの大声が、夜中まで続く。
何度か目が覚めたが、不思議と嫌な気はしなかった。
人が集い、語り、夜を楽しむ街。
ラ・ロッシェルは、そういう場所なのだ。
レ島の静寂と、ラ・ロッシェルの喧騒。
その両方を味わって、この旅は、また一段深くなった気がした。

