カウチサーフィン10泊してチキン10本食べたスイス滞在記

展示会のためにスイスへ行く——別に理由なんてなんでもよかった。ただ、外国へ行きたかったんだ。そこで見つけた展示会。

僕はアーティストでもなければ、海外の展示に出るような陶芸家でもない。ただ、実家が陶器屋を営んでいて、小さなころから湯呑みや土鍋に囲まれて育ってきた。そんな僕が、ひとりでスイスに行って、「カウチサーフィン」というサイトで見つけたホストの家に泊めてもらいながら、日本文化を紹介する展示会に参加したお話を、今回は旅のエッセイとして綴ってみたいと思う。


1.陶器とともに、ひとり飛ぶ

目的地は、スイスの首都ベルン。展示会には、日本文化に関心をもつ人々が集まり、和食や書道、折り紙といったブースが並ぶらしい。僕はそこに、実家の陶器を並べてみようと考えた。

陶器は、数か月前に船便で送った。湯呑み、小鉢、そして土鍋。どれも日本の暮らしの中に根づいているものばかりだ。

「鍋は、日本の冬の代表的な家庭料理。この鍋文化を伝えたい。」

そう思いながら、私はスイス行きの飛行機に乗った。


2.スイスの物価と、ジョンの家と、チキン10本と

スイスといえば、風景は美しいが物価は高い。ホテルを探してみると、ビジネスホテルのようなところでも1泊1万5000円ほど。10泊分となると、さすがに腰が引ける。

そこで見つけたのが「Couchsurfing」というサービス。現地の人が自宅に旅行者を無償で泊めてくれるという仕組みだ。

私を迎えてくれたのは、ベルン在住のジョン。日本文化に関心があって、少し日本語も話せる青年だった。

「泊めてもらうお礼に、料理くらいふるまわんとなぁ!」

そう思って、近くのスーパーでチキンレッグ10本入りのお得用パックを購入。それをにんにくでこんがり炒めて、ジョンとビールで盛り上がろう!一気に仲良くなれること間違いなし!
そう意気込む僕は、キッチンを借りて料理を始めた。

…ところが。
フライパンでじゅわーっとチキンを炒めていた僕を覗き込んだジョンが言った。

「僕…ベジタリアンなんだ」

えーーーーっ!?

そうか!!そういうことがあるのだ!!高校の修学旅行でオーストラリアにホームステイしたとき、クラスメイトのホストがベジタリアンで、苦心してたじゃないか!僕はそれをすっかり忘れていたのである。

当然ながら、時すでに遅し。むむむ、、、チキン。。。
その日から、僕はひとりでせっせとチキンを消費することとなった朝も、夜も、である。

毎食、目の前でチキンをむさぼる私を見て、ジョンは一体どんな気持ちだったのだろうか…。今でも少し申し訳ない気持ちになる。


3.土鍋に向けられた、スイスのまなざしは熱かった

チキンレッグを食べて精力十分の展示会当日、僕は実家の陶器をそっと並べる。

まわりには、着物の着付け、折り紙ワークショップ、日本食の試食コーナーなど、視覚にも香りにも楽しい日本文化のブースが並んでいた。そんな中、僕のテーブルには、小さな湯呑みや取り皿、そして存在感のある土鍋。

んー。地味だ。お客さんはみんな素通りしていくんじゃないだろうか。まぁええか。
早くも開き直っていた僕であったが、いざお客さんが入場してくると、予想以上にたくさんの人が僕のブースの前で足を止めてくれた

「これ、日本ではどんな料理に使うの?」
「鍋?スープ?オーブンにも入る?」
「Wow, it’s beautiful! Is it handmade?」

英語でのやりとりは少し緊張したけれど、事前に練習していたおかげで、なんとか伝えられた。実はこの日のために、数か月前からネイティブキャンプというオンライン英会話で、陶器の説明や日本の食文化について話す練習をしていたのである。

レッスンでは、
「土鍋はみんなで囲んで食べるための鍋で、冬によく使うんです」
「It’s a clay pot called donabe. We use it to enjoy hot pot dishes together.」
そんな表現を講師の先生と繰り返し練習した。

本番では、その言葉が自然に口をついて出た。来場者の笑顔を見て、「やっておいてよかった」と心から思った瞬間だった。

ネイティブキャンプは予約もいらず、すきま時間にすぐ話せるから、旅やイベント前の準備に打ってつけ。文化を伝えたい、でも英語にちょっと自信がない…という人には本当におすすめなのである。

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4.国も言葉も違っても、「食卓を囲む」楽しさは共通

特にスイスの人たちが興味を示してくれたのが、「土鍋」。

「これは日本の“フォンデュ鍋”みたいだね」
「鍋を囲んで食べるって、いいね!」

そんな感想をもらいながら、日本の冬の風景——家族や友人と鍋を囲み、笑いながら食べるあの時間——を、少しでも届けられたような気がした。

中でも、文句なしに土鍋に一番食いついていたのは、スイス在住の日本人のみなさんである。
「こっちのデパートでは土鍋売ってないのよー。」
「あー、鍋食べたいわぁ。これ売ってくれないの??」


5.文化を届けたと思ったら、自分がいちばん学んでいた

10日間の滞在はあっという間だった。チキンを食べ、展示会場で英語を話し、ジョンと日本語まじりの会話を楽しみながら、私は「文化を伝える」ということの意味を考えさせられた。

大きなステージじゃなくても、プロの作品じゃなくても、誰かにとっては「はじめて見る世界」になる。そんな瞬間を、一緒に過ごせたことが、何よりの宝物になった。


スイスに、友ダチがひとりできた。
展示会に来てくれた人の記憶の中に、日本の焼き物とチキンを頬張る変な日本人が、少しでも残っていたら、それだけで十分だ。

次はどこに行こうか。また、誰と出会えるだろうか。

そんなことを思いながら、空になったチキンのパックと、まだほんのり余熱の残る土鍋をそっとスーツケースに戻したのである。